海藻由来多置換ポリフェノールの構造解析~NMRは強力な武器だけど限界もある~
ポリフェノールはフェノール性ヒドロキシ基を2個以上有する化合物の総称である。これらは天然化合物の一大グループを形成し数多くの化合物が同定されている。生物活性を示す化合物も多くあり、食品においてもフラボノイドやカプサイシンなどのような機能性や嗜好性に寄与する化合物も多く知られている。フェノールはベンゼン環にフェノール性ヒドロキシ基が置換しており、誘導効果や共鳴効果により求電子的置換反応やラジカル反応を介して新たな結合を作り複雑な化合物となる。そして、ハロゲンの置換やヒドロキシ基の酸素原子やベンゼン核で結合を形成することで、複雑な化合物に変換されていく。このようなベンゼン核での置換反応や結合形成反応により、ベンゼン環が高度に置換された化合物も生成しやすい。
現在の天然化合物の研究では液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)を用いた網羅的解析などのメタボロミックス研究が盛んに行われている。少量の抽出物で多くの代謝物情報が得られる点では非常に有効な分析法である。しかし、LCの保持容量(保持時間×流速)とMSの分子量やフラグメント解析だけでは、既知物質の解析に限定されるので未知物質の解析に用いることが難しい。未知物質の同定(構造決定)では、核磁気共鳴分光法(NMR)など分光学的手法が現在も有効である。本稿では著者の単離同定してきた機能性ポリフェノール類のうち多置換型の構造等をいかに決定したかを概説する。現職に就いてからは海岸の海藻由来のフロログルシノールオリゴマー類やブロモフェノールオリゴマー類を単離して構造決定を行ってきた。さらにさかのぼって学生の頃には、海藻ではないが砂浜に生育する陸上植物からレスベラトロールオリゴマー類を単離してきた。これらの構造解析の手法を概説する。
(1)カヤモノリ科褐藻ワタモ由来のフロログルシノールオリゴマー類1)
フロログルシノールは1,3,5-トリヒドロキシベンゼンであり、フェノール性ヒドロキシ基がお互いにメタ位に存在する構造をとる。ポリフェノールの機能にラジカル消去活性がある。オルト位やパラ位に複数のフェノール性ヒドロキシ基がある場合、それらのフェノキシルラジカルは対応するオルトキノンやパラキノンになり消去される。それに対してフロログルシノールのようなメタ位に複数のフェノール性ヒドロキシ基がある場合は、キノンへの変換ができないため、ラジカル同士で重合することでしかラジカルを消去できない。よって、フロログルシノールは重合化しやすく、フロロタンニンと呼ばれるポリマーを形成しやすい。いくつかの褐藻ではポリマー化せずに、フロログルシノールオリゴマーを蓄積するものが知られている。本稿では、いずれも既知物質ではあるが、その中のワタモから得られた三量体1及び2(図1)の構造決定を紹介する。

ワタモから2種類の三量体1及び2が得られ、それらの分子量は一致し、完全アセチル化後の分子量との差から、1では8つ、2では7つの遊離フェノール性ヒドロキシ基を有していた。1の13C NMRスペクトルではフロログルシノール構造に特徴的なヒドロキシ基の根元の低磁場シフト芳香族カーボン(150 ppm弱)と、両隣にヒドロキシが置換したかなり高磁場シフトした芳香族カーボン(100 ppm弱)であった。3つある芳香環のうち、2つは部分的に対称構造をとることもわかり、二次元NMRのデータの解析からフコフロレトールC(1)と同定できた。化合物2は1と同じ分子量であるにもかかわらず、NMRのCシグナルは8種類のみとかなり少なくなっていた(図2)。これは対称体に特徴的なパターンであり、このような場合に可能性のある異性体のうち対称構造のものだけを考慮することになり、構造の決定は容易になる。NMRデータの解析からトリフロレトールC(2)と決定できた。

(2)フジマツモ科紅藻から得られるブロモフェノール類2)
フジマツモ科紅藻は食用に使われることはないが、臭素の置換したポリフェノールが得られ、それがオリゴマー化して多様な構造をとる。臭素原子は同位体に特徴があり、79Brと81Brの天然存在比がほぼ1対1であるため、分子イオンピーク(M+)と同位体ピークのクラスターが臭素原子の置換数により特徴的なパターンを示す。例えば、臭素原子が一つ置換するとM+ : M++2 =1 : 1のピーク強度で現れ、臭素原子が二つ置換するとM+ : M++2 : M++4 =1 : 2 : 1のピーク強度で現れる。このように分子イオンと同位体ピークのクラスターから分子内の臭素原子の置換数が分かる。フジマツモ科紅藻の基本ユニット単量体の骨格は共通しているが、臭素置換数が異なる。モロイトグサからはモノブロモ体3、ハケサキノコギリヒバはジブロモ体4、イソムラサキからはトリブロモ体5が単離された(図3)。

それぞれ四~六置換ベンゼン環であり、芳香環プロトンの情報は非常に少ない。その他にはベンジル位のプロトンがあるだけである。構造決定を行う上で、HH-COSY、HMQC(またはHSQC)、HMBC、NOESYなどの二次元NMRスペクトルの情報が重要である。特に天然存在比や測定感度の高い1Hの情報は極めて重要である。これらの二次元NMRデータの相関と化学シフトや結合定数の情報から、多くの化合物では相対立体配置の情報を含めた構造決定を行うことができる。特にHMBCは2本~3本のHとCの相関を明らかにでき、構造決定を行う上で強力なツールになる。しかし、先述の通りブロモフェノール(化合物3~5)はプロトンの数が少なく、NMRデータの帰属による平面構造の決定は難しい。すべてにベンジルプロトンが存在するのに対して、3の芳香族プロトンは2個、4では1個、5では0個であった。幸いなことにベンジルカップリング(アリルカップリングに相当)の弱い相関ではあるが観察され、3、4ともにベンジル位のオルト位に芳香族プロトンが配置することを確認できた。ベンジル位プロトンや芳香族プロトンから2ないし3結合内にある芳香族カーボン5個を帰属し、残りの1個のカーボンはケミカルシフトから官能基を決定した。このようにしてNMR全データを帰属して、構造を決定することができた。5については3や4で帰属したそれぞれのケミカルシフトと類似性がみられたので、シグナルの帰属を推定できた。
ブロモフェノール4及び5はそれぞれの脱水対称二量体である6及び7も単離された。これらのうち4と6はシリカゲルTLC上で分離して検出されるが、5と7のスポットはほぼ同じRf値にあった。1H及び13C NMRのデータは単量体と二量体でほぼ同じ化学シフト値となった。MSで単量体と二量体の両者の分子イオンピーク及び同位体のクラスターが検出されたことで、初めて単量体と二量体の混合物であることが明らかになった。セファデックスLH-20カラムクロマトグラフィーにより単量体と二量体を分離することに成功した。MSにより分子イオンピークが異なることで確認できた。さらに、HMBCスペクトルでは、通常あまり行わない方法で、単量体と二量体の区別を行った。通常2本ないしは3本の結合を介した13Cと1Hのカップリング(2JCHまたは3JCH)は数Hz程度であり、その際に直接結合した13Cと1Hのカップリング(1JCH、百数十Hz)を弱めるためのシーケンスを入れることで測定される。この部分のシーケンスの時間を変更することで、一部の1JCHを残す方法でHMBCを測定した。その結果、単量体5では、ベンジルカーボンとプロトンの相関の部分に1JCHの大きな結合定数の相関のみが観察された。二量体7では、ベンジルカーボンとプロトンの相関の部分に、3JCHと1JCH相関が同時に観察された。この結果は対称エーテル構造を支持した。
(3)スゲ属植物由来のポリフェノール(レスベラトロールオリゴマー)3)
海岸の砂浜に生育するカヤツリグサ科スゲ属のコウボウシバの地下部より抗菌性ポリフェノールのレスベラトロールオリゴマーが得られた。このうち、二量体はε-ビニフェリン(8)というブドウ科ブドウ属Vitis vinifera(ヨーロッパブドウ)のファイトアレキシンとして単離された既知化合物である(図4)。NMRデータはヨーロッパブドウで報告されたデータと一致した。この化合物の骨格は2,3-ジアリール-2,3-ジヒドロベンゾフランであり、2,3位はともに不斉炭素である。これらの相対立体配置を決めるためには、空間的に近い核種の相関がでるNMRの核オーバーハウザー効果(NOE)や立体配座などの二面角に依存するビシナル結合定数(antiperiplanarのような二面角が180°の時には10 Hz程度で、90°の時にはほぼ0 Hz)から推定するのが常套手段である。しかし、酸素を含む5員環上のビシナル結合のプロトン同士は相対配置がcisでもtransでもほぼ同じ結合定数をとり区別がつかない。NOEの情報からtransであろうとは推定されたが、化学的に実証できなかった。そこで、単離した化合物8を化学的誘導法によりcisとtrans体へと変換して天然化合物とのNMRデータの比較を行った。

化合物8を直接5%パラジウムカーボン触媒存在下水素添加によりジヒドロ体9を得た。他方で化合物8はジメチル硫酸で完全メチルエーテル化物10に誘導後、5%パラジウムカーボン触媒存在下水素添加により11を得た。一方、化合物10に脱水素化剤である2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノキノン(DDQ)を作用させデヒドロ体12を得た。化合物12は同じ面から水素添加を行いcis体へと変換できるパラジウムブラック触媒存在下加温加圧水素添加により2,3位がcis配置をとる化合物13を得ることができた。化合物13はルイス酸の塩化アルミニウム存在下で即座にエネルギー的に安定な2,3位がtrans配置体14へと変換した。天然化合物由来のジヒドロ体11はtrans体14のNMRデータと完全に一致したため、天然の化合物8はtrans体と結論づけた。ちなみに天然化合物誘導体11やtrans体14の2,3位プロトンのビシナルカップリングは6.2 Hz、cis体13では8.3 Hzと近い値であった。やはりビシナル結合定数からだけでは相対配置の決定は困難であることを確認できた。相対立体配置は決定できたので、絶対立体配置の検討を種々行ったが決定には至らなかった。しかし興味深いことにカヤツリグサ科コウボウシバから得られたε-ビニフェリンのジヒドロ体(9)は負の旋光度を示した。一方、ヨーロッパブドウは入手できなかったので、北海道に自生するブドウ科ヤマブドウ(Vitis coingnetiae)から単離したε-ビニフェリンのジヒドロ体(9)はNMRデータがすべて一致した(相対立体配置は同じ)のに、正の旋光度を示した。このようにカヤツリグサ科とブドウ科で逆の絶対立体配置であるエナンチオマーを天然で生合成しているのは興味深い。このようにLC-MSやNMRだけでは知ることができない情報も得ることができた。
天然化合物の機能性を期待して、抗菌性や酵素阻害活性を指標に天然化合物のスクリーニングを行うと様々なポリフェノールが得られてくる。これらの既知化合物のデータは既に取得されている例が多い。しかし、たとえ既知化合物であっても、未同定の化合物の構造決定にはこれまで発展してきた解析手法を用いることが肝要である。本稿ではいくつかの例のみ話題として挙げたが、多置換ポリフェノールでは、NMRの情報量が少なくなることもあり、クラシックな手法を駆使していく必要がある。「巨大で複雑な構造の分子」のNMRによる構造解析は言うまでもなく難しいが、「小さく単純な構造の分子」のNMR構造解析も案外難しいことがある。この場合は有機化学の知識を活用して総合的に解析することが重要となる。
引用文献
- 1) Kurihara, H., Kujira, K. (2021). Phlorotannins derived from the brown alga Colpomenia bullosa as tyrosinase inhibitors. Natural Product Communications, 16 (7), 1-5.
- 2) Kurihara, H., Mitani, T., Kawabata, J., Takahashi, K. (1999). Inhibitory potencies of bromophenols from Rhodomelaceae algae against α-glucosidase activity. Fisheries Science, 65 (2), 300-303.
- 3) Kurihara, H., Kawabata, J., Ichikawa, S., Mizutani, J. (1990). (-)-ε-Viniferin and related oligostilbenes from Carex pumila Thunb. (Cyperaceae). Agricultural and Biological Chemistry, 54 (4), 1097-1099.
略歴

栗原 秀幸(くりはら ひでゆき)
北海道大学大学院水産科学研究院
教授
1988年 北海道大学農学部農芸化学科卒業、1990年 同大学院農学研究科修了、1990年 三菱化成株式会社入社、1991年 北海道大学水産学部助手、1997年 同助教授、2022年 同大学院水産科学研究院教授、現在に至る。
サナテックメールマガジンへのご意見・ご感想を〈e-magazine@mac.or.jp〉までお寄せください。
Copyright (C) Food Analysis Technology Center SUNATEC. All Rights Reserved.