放射性物質の新基準値が施行されて〜注目される点や今後の課題など〜
1.はじめに
2.新基準値設定の経緯
そのため、いずれ正式な基準値が設定されることが予想されていたが、2011年10月28日に厚生労働大臣が記者会見で、目安とする年間被曝線量を1 mSvに引き下げた新基準値を2012年4月から適用することを表明した。緊急時に内部被曝として5 mSvであったため、おさまった時期(こう考えられるかは疑問もあるが)の被曝線量限度としては国民にもよく知られている数値である1 mSvを採用するしかないのであろう。
3.食品安全委員会による食品健康影響評価
4.新基準値の設定法

図1.食品中放射性セシウムの暫定規制値と新基準値
厚生労働省ホームページ 新しい基準値の設定(ダイジェスト版)リーフレットより抜粋
(http://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/dl/leaflet_120329_d.pdf)
規制する放射性核種としては原発からの放出量が試算され、かつ半減期が1年以上の核種すべて、具体的にはCs-134、Cs-137、Sr-90、Pu、Ru-106とした。しかし、これらを個別に測定するのは負担が大きすぎるため、それらの寄与をすべて含めて考慮するが、基準値は放射性Cs(Cs-134+Cs-137)の数値のみで示すこととされた。今年度から、放射性Cs以外の核種を含めた食品中放射性物質の精密測定が予定されており、その結果で新基準値の妥当性が検証されるであろう。
最初に飲料水の基準値として、WHO飲料水水質ガイドラインで示されている10 Bq/kgが採用された。これは年間線量レベル約0.1 mSvに相当する放射性Csのレベルである。
ついで、一般食品に割り当てる線量につき、年齢区分別の食品摂取量や食料自給率(50%を採用)などを基に試算された。その結果、最も数値が低く出たのは13〜18歳男性での120 Bq/kgであったため、切り下げた100 Bq/kgを全年齢での一般食品の基準値とした。牛乳と乳児用食品はほとんど国産であるため自給率を100%とし、基準値を半分の50 Bq/kgとすることで、食品安全委員会の答申に対応した。
施行は2012年4月1日からであるが、流通期間が長い米と牛肉では2012年10月から、大豆は2013年1月から切り替わる。海外の基準(コーデックス、EU)では一般食品の放射性Csの限度値が1,000〜1,250 Bq/kgであるのに対し、わが国では100 Bq/kgと1桁厳しい値である。これは汚染食品の割合を海外では10%としているのに対し、わが国では50%としていることが最大の理由である。自国で事故が発生するとこうなってしまう。
5.製造・加工食品における基準値適用法
1)茶、こめ油など(実際の食品形態が原材料と大きく異なる)
これらは原材料の状態では、基準値は適用されない。
茶は飲む状態で飲料水の基準値10 Bq/kgが適用される。飲料水の代替となる役割を考慮したためである。なお、茶とはチャノキの茶葉のものに限定され、かつ発酵工程を経た茶葉は除かれている。また、抹茶や粉末茶のように粉末で販売されるものは、粉末そのものを摂取するとして、粉末状態で一般食品の基準値が適用される。
食用サフラワー油、食用綿実油、食用こめ油、食用なたね油については、油脂の状態で一般食品の基準値が適用される。
2)乾燥食品で水戻し後に食する食品(乾燥きのこ類、乾燥海藻類、乾燥魚介類、乾燥野菜など)
乾燥前の状態と食する状態(水戻し後)において、一般食品の基準値が適用され、乾燥した状態では適用されない。なお、水戻し後の測定については、乾燥品で測定し重量変化率を用いて換算してもよい。ただし、「のり」や「干しぶどう」など、乾燥状態でそのまま食する食品には、原材料と乾燥食品状態のそれぞれで一般食品の基準値が適用される。
6.監視のための検査方針(食品中の放射性物質に関する
「検査計画、出荷制限等の品目・区域の設定・解除の考え方」の改正)
方針を概説すると、対象地域は福島県を含む17都県(過去に複数品目で出荷制限になった6県と他の11都県に分かれる)で、対象食品は対象地域で過去に100 Bq/kgを越えた品目や50〜100 Bq/kgの品目であり、都県と品目の組合せにより、各市町村毎に3検体以上か1検体以上かの検体数が決まる。水産物は海産魚種32類と内水面魚種7類に分けられ、前者は太平洋岸の岩手県〜千葉県の5県のみが対象県となる。
検査は週1回程度が基本である。基準値を超えた食品については、食品衛生法による廃棄、回収等の措置がとられる。
検査法としては核種同定が可能なゲルマニウム半導体検出器を採用し、その試験法は3月15日に通知された。スクリーニングにはNaI(Tl)シンチレーションスペクトロメータ(例示)等が用いられる。スクリーニングレベルが基準値の1/2以上、測定下限値が基準値の1/4以下であることが求められ、その方法が3月1日に事務連絡された。
7.輸入食品への基準値も統一され早くも違反事例
この数年の輸入食品での違反事例を表1に示す。検査対象は生産地域と品目で限定されていたが、その中でも違反事例はキノコ類とブルーベリー製品に限られていた。
8.放射性物質濃度が注目される食品(キノコ類、タケノコ、茶)
1)シイタケを含むキノコ類とタケノコ
キノコ類の基準も4月に切り替わった。自生キノコの収穫は秋であるが、シイタケの旬は春と秋である。厚生労働省は4月4日に、宮城県産の原木シイタケで350 Bq/kgが検出されたと発表した。千葉県木更津市と市原市のタケノコとともに、新基準での初めての基準値超過事例とされた。原木シイタケとタケノコについてはその後も次々と基準値超過が発表され、出荷停止の指示などが頻発している。
林野庁はキノコ栽培用の原木の放射性Csについて、従来の150 Bq/kgを4月から50Bq/kgに厳格化している。一方、おがくずや米ぬかでつくる菌床キノコ栽培用の培地については、Csが移行しにくいことがわかったため、150 Bq/kgから200 Bq/kgに緩和している。市販品では菌床シイタケが8割を占めているが、国産の原木乾シイタケは減らないで欲しいものである。
表1に示したように近年でも輸入キノコ類で370 Bq/kgを越えて輸入禁止になった事例が発生している。今回、一般食品の基準値100 Bq/kgが適用されることになったが、輸入キノコ製品への基準値適用方法が注目されるところである。
今年春の学会で、2002年〜2006年に国内で採取された野生キノコから、137CsがND〜959 Bq/kg(生)検出されたと報告された2)。品種と採取場所によっては、原発事故前のキノコでも放射性物質に汚染されていたということで、チェルノブイリ原発事故や中国の核実験などの影響が、国内土壌に残っているのかもしれない。
タケノコの汚染も、竹のひげ根が地表近くにびっしり生え、そこから吸収されたCsが地表近くを横に広がる地下茎に蓄えられ、タケノコに移行するものと思われる。竹が放射性物質をよく吸収するなら、竹チップなどの汚染にも注意する必要がある。
| 年・月 | 品目 | 生産国 | 検出値 | 担当検疫所 |
| 20・8 | 乾燥カバノアナタケ | ベラルーシ | 401 | 成田空港、行政検査 |
| 20・10 | 生鮮アンズタケ | ベラルーシ | 450 | 成田空港、行政検査 |
| 21・8 | 原料用果汁 (BLUEBERRY JUICE CONCENTRATE) |
ポーランド及びウクライナ | 440 | 川崎、自主検査 |
| 21・9 | 生鮮まつたけ | スウェーデン | 496 | 関西空港、行政検査 |
| 21・11 | 乾燥きのこ(YELLO TRUMPET) | スウェーデン | 776.7 | 成田空港、行政検査 |
| 21・11 | 乾燥きのこ(TRUMPET CHANTERELLE) | スウェーデン | 543.3 | 成田空港、行政検査 |
| 21・12 | オーガニックブルーベリージャム | フランス | 500 | 国内流通品 |
| 24・4 | ブルーベリージャム3種 | オーストリア | 140,180,220 | 千葉、自主検査 |
| (原産国はポーランド) |
*厚生労働省ホームページ(http://www.mhlw.go.jp/topics/yunyu/ihan/)より
(平成24年4月26日公表分まで)
2)茶
茶では、飲用に供する茶として飲料水の基準(10 Bq/kg)が適用される。荒茶・製茶10 g以上を30倍重量の熱水(90℃)で60秒間浸出し、40メッシュ相当のふるい等でろ過して検査される。ただし、荒茶・製茶を厚労省通知法で検査して200 Bq/kg以下か、厚労省スクリーニング法で検査し150 Bq/kg以下の場合は、浸出液として検査する必要はない。
従来は生葉、荒茶、製茶のすべての段階で暫定規制値(500 Bq/kg)をクリアする必要があった。水分含量の観点から荒茶と製茶には大変厳しい基準であり、静岡県から異論がでたりした。農林水産省の調査によると、飲用部分に抽出される放射性Csの濃度は、30倍量の熱湯で浸出した場合に製茶中濃度の50分の1程度になるとしている3)。この数値から計算すると、適用される飲料水の基準値10 Bq/kgは製茶で500 Bq/kgとなり、製茶・荒茶への暫定規制値適用は、新基準値並みに厳しかったことがわかる。荒茶の重量は生葉の約1/5になるため、新基準値より5倍緩い暫定規制値時代には、生葉での規制が適切であったと数値から考えられる。
昨年にチャノキの茎中に吸収された放射性Csが新芽に移行してくると考えられる4)。放射性物質を減らす目的で例年よりも深く剪定するなどの対応がされているが、実際に新芽にどれくらい移行してくるか、一番茶での数値が注目される。
9.低濃度での測定と問題点
測定では測定容器の汚染を防止するため、通常ポリエチレン製袋を用いて試料を充填するが、検出器に近い測定容器底面に空隙ができないように注意が必要である。また、水分が分離しないよう注意も必要である。測定が標準線源との比較で行われるため、試料と標準線源で検出器に対する空間的位置関係を可能な限り同一にすることが望ましいからである。当然、試料も均一であることが望ましい。
スクリーニング法で誤差として影響する因子については、値が高めにでる正のバイアスがかかる方が、負のバイアスが入り込むよりもスクリーニング目的にかなうとして対応するのが望ましい。
10.自治体への支援が課題
また、分析担当者の訓練も重要である。チェルノブイリ原発事故の際は輸入食品が対象で、分析は主に国が実施したこともあり、自治体では経験者が少ない県もあると思われる。遅すぎるきらいはあるが、今年2月に厚生労働省の2つの試験研究機関が合同で、地方衛生研究所の担当者に対して研修を実施している。
今後、如何に検査体制を整えるかが、厚生労働省に課せられた課題である。
11.自主検査における信頼できる分析の要件と依頼検査
また、分析を発注(依頼)する場合には、厚生労働省の登録検査機関または精度管理等の体勢を整備した分析機関を選ぶよう、分析機関の一覧表も示している。
12.おわりに
消費者が望む検査体制や検査レベルは多様と思われるが、低いレベルを求めすぎると被害を受けた産地の排除につながる。そのため、農林水産省は4月20日に食品関連団体に、独自基準ではなく、あくまでも国の基準に基づいて検査するよう通知している。放射性物質に限った話ではないが、国のすることが信頼されていないのが一番気がかりなところである。
文献
1) 厚生労働省:食品中の放射性物質に関する「検査計画、出荷制限等の品目・区域の設定・解除の考え方」の改正について
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000024vrg.html
2) 寺田 宙ら:基質〜キノコにおける放射性セシウムの移行性 日本衛生学雑誌67(2) 316 (2012)
3)農林水産省:茶についてhttp://www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/saigai/cha_situmon.html
4)
:Translocation and depuration of 137Cs in tea plants. J. Radioanal. Nucl. Chem., 218, 263-266 (1997)
5)厚生労働省:「緊急時における食品の放射能測定マニュアル」に基づく検査における留意事項について http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000019v70-img/2r9852000001a0nj.pdf
著者略歴
京都大学薬学部卒、同博士課程修了(放射性薬品化学専攻)。環境庁国立公害研究所を経て、国立医薬品食品衛生研究所に勤務。食品部でチェルノブイリ原発事故後の輸入食品に対応。その後食品添加物部室長・部長および食品部長として、既存添加物制度や農薬等ポジティブリスト制度の確立に研究サイドの中心として対応。2008年4月同研究所名誉所員。現在、静岡県立大学食品栄養科学部・食品栄養環境科学研究院特任教授。
(e-mail:maitani@u-shizuoka-ken.ac.jp)
サナテックメールマガジンへのご意見・ご感想を〈e-magazine@mac.or.jp〉までお寄せください。
Copyright (C) Food Analysis Technology Center SUNATEC. All Rights Reserved.