かきウイルス物語(かきを美味しく安全に食べるために)
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| 宮城県で生産された種かき(宮城種)が、毎年秋に三重県にやってくる。コレクターといわれるホタテガイの貝殻に稚貝を付着させ、長期の輸送にも耐えるように潮間帯で強化された小さなかきである。種がきは、ホタテの貝殻70枚を1連(れん)単位で取り引きされる。1枚1枚を一定間隔でロープに固定し、海に吊るして養殖する。天然のマガキは潮間帯に生息するので干潮時には海面上であるが、養殖マガキは、筏に吊るすので24時間海面下で餌を食べることができる。この方式が垂下養殖と呼ばれ、三重県の養殖海域では1年養殖で出荷できる大きさにかきは生長する。養殖ってどんな餌をやるのですか?と消費者から聞かれることがたまにある。しかしかき養殖は、プランクトンの多い海域に吊るしておくだけで、養殖魚のように餌をやるわけではない。それこそ海がかきを生長させていくのである。 では、どのくらいのかきが生産できるのであろうか? 例えば水深10mの内湾で、5m四方(25㎡)の筏に、種かき1枚を一定間隔に10枚吊るしたロープ(垂下連)を、縦横10本ずつ繋ぐと、10枚×10本×10本=1000枚、15連の種がきが必要となる。1枚のかき板が生長して大きくなり、ばらして平均10個のかきが取れれば合計1万個。平均20個取れればその倍量のかきが収穫できることになる。水田では10アール(1000㎡)で米が約8俵(玄米480Kg)収穫できる。しかしかきはその40分の1の面積の筏で同じくらいの売上が確保できることになる。垂直方向にも利用できる海の立体的生産力は実にすごいものである。 かきの餌量は、基本的には光合成を行う植物性プランクトンの量で決まり、その増殖に必要な栄養素は主に陸からの河川水に依存している。陸水はその年の雨量に左右され、河川を通じて養殖海域に流入する。従って雨の少ない年はかきの生長はよくないとされる。三重県の養殖海域である鳥羽の海は、清流宮川や水量の多い木曽三川の恩恵を受ける豊饒の海だ。他方、的矢湾は神宮林を源流とする神路川、野川、池田川が流れ込む独特の地形で、湾口部は太平洋に面している。かきの養殖海域は実に美しい形をしているものだ。そして、河川水によってもたらされた栄養素をもとに増殖するプランクトンの種類によってかきの味も大きな影響を受けるといわれる。“わが町、わが海のかきの味が一番!”というかき通の自慢話につながっていく。 生産量は少ないが、三重県には白石湖(紀北町)でかきが養殖され、「渡利かき」の名称で出荷されている。白石湖は汽水湖で、種苗から養殖まで一貫したかきの生産が行われており、幻のかきと言われる所以であるが、非常に味のいいかきだ。この地方は日本有数の多雨地帯である。非常にきれいな河川水が流入するだけでなく、大台山系や白石湖周囲の森から供給されるミネラル豊富な伏流水もまたプランクトンの増殖やかきの味に影響しているのではないかと思っている。流域の人口は少なく生活排水の影響も小さいが、もちろん渡利かきも全て浄化され出荷されている。 2008年1月、三重県「食の安全安心ツアー(カキ)」の催しでは、白石湖でかきを養殖する畦地宏哉さんがかきの生産過程を消費者に紹介した。かきの採苗や養殖の見事な画像による説明だった。宮城種を利用したかき養殖が主流の三重県にあって、白石湖のかき養殖は貴重な存在である。 |
| 図5 三重県かき養殖海域 |
| 「浅海完全養殖」猪野峻〔等〕編 今井丈夫監修 恒星社厚生閣 1971年 「森は海の恋人」畠山重篤著 北斗出版 1997年 「牡蠣礼賛」畠山重篤 文春新書 2006年 |
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1973年北海道大学獣医学部卒業、獣医師として三重県に入庁。食品衛生行政を中心に本庁14年、地域機関(5保健所2食肉衛生検査所1保健福祉事務所)22年勤務、本年3月末勧奨退職。BSE問題のとき松阪食肉衛生検査所長として食肉センターの見学を実現し、現在松阪牛文化ミュージアム事業に発展できたこと、食品の偽装表示事件のとき健康福祉部総括室長として議会・報道対応したことが貴重な経験に。腸炎ビブリオ食中毒予防対策とカキのウイルス対策には長年関与。本年6月の当財団理事会で理事長に選任。 |
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