農薬基準値違反を出すということ ー検査現場の悩みー
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| 一律基準値0.01ppmが適用される作物で0.014ppm前後が検出される場合は、上記に示したようないろいろな誤差を考えると悩みが尽きません。悩めば悩むほどいろいろな分析方法を試し、検査回数をいたずらに増やしてしまい、データの取捨選択にあたり、更に悩みが深く成ります。このようにならないためには日常の訓練と技術習得といってしまえば話は簡単ですが、なにせ作物と農薬の組み合わせは膨大であり、それぞれに経験を積むのも容易ではありません。この対策としては明快な手順書(マニュアル)が必要です。このマニュアルに一番求められるものは、誰もがいつでも同じ結果を出せるものです。このためには、違反再検査の流れが明確でかつわかりやすいものが求められますが、熟練者には分かり切ったことでも丁寧に記述してあるものが必要です。俗に言う「行間を読む」ことなく分析可能なマニュアルが、いざという場合の検査員の救いとなるものと思われます。 |
| 通常は通知法か独自法の一斉分析法を使用して検査を行いますが、検出された数値により当然、後処理が異なります。ここは私どもが通常実施している流れを紹介します。まず基準値の50%以下の数値はそのまま採用します(ただし同時並行添加回収試験を行い、この農薬の回収率が担保されているのを確認します)。基準値の50%以上〜基準値までの数値なら、通知等個別試験法に基づき再検査を行い、基準値以下なら通知等個別試験法の数値を採用します。 いずれも基準値を超えた場合は、複数の検査員により複数の分析法(通常は通知一斉分析法及び通知等個別試験法)で各5回検査を実施し、一番低い値を採用します(これ以下にはならないという値)。このときの留意点を以下に示しておきます。(1)標準液のクロスチェックを行う(保証期限内の確認、他社比較、新旧比較)。(2)同種作物試料によるブランク試験を行い、作物成分由来で無いことを確認する。(3)基準値と同程度の濃度を添加した同種作物試料による添加回収試験を実施する。(4)マトリックス効果の有無を確認し、効果が大のときはマトリックス標準液により定量する。(5)吸着・分解等の恐れのあるものは標準添加法による定量をおこなう。(6)MS・MSでの再確認を実施する。(7)実施した操作、データは全て整理・保存しておく。 |
| 違反が出たら検査現場から行政への報告は、検査結果だけではなくいろいろな資料が要求されます。まず(1)毒性、(2)ADI、(3)国民栄養調査による該当作物の摂取量、(4)物理・化学的諸性質、(5)国内外残留報告値、(6)分解指数、(7)該当農薬の出荷量、(8)県内の該当作物出荷量、(9)搬入試料の状況等々を添付し、ADIからみて安全性のコメントを付けて食品衛生担当課に報告します。このように、通常検査の10倍以上の手間がかかることになります。 |
| 食品衛生担当課は農政担当課と協議し、食品衛生法や農薬登録保留基準等の違反を確認後、統轄保健所経由で、出荷停止及び回収命令を出し、作物の処分をさせるとともに、農政行政サイドから農薬の適正使用について指導をする事になります。これと平行して国に報告、記者発表を行い、報道用に作成された資料を各近隣府県に情報提供を行います。たいていは地方版に掲載される事が多いです。 |
| しかしたまに農家より使用していないという申し出があり、各方面の物議を醸し出す事もあります。特に農薬等ポジティブリスト制施行後は全てに基準が適用されてしまうため、前作物に使用し畑に残っていた、隣の畑からのドリフトだ、たまたま散布器に以前の使用薬剤が残っていた等々の状況でも、一律基準値を超えると違反となります。以前には「使用していない、損害賠償を要求する」というケースもあり、我々が違反検査結果を出すときにはそれなりの覚悟も必要となります。このためデータ等の資料は、裁判に耐えるものを作成し保管しておく必要があります。特にGLPに基づくSOPを遵守しているか否かは慎重に確認しておくことが重要でしょう。データに疑問があれば、時に各地方厚生局のGLP査察を受ける場合もあります。 また近年、農作物品種の多様化に伴い、「その他野菜」に分類される作物が多くなり、検出農薬に一律基準値が適用される場合が結構多く出てきました。このため違反が出やすい状態となっており、現場検査員は戦々恐々といった状況が続いています。 とりとめの無い話になりましたが、行政の検査機関において「農薬基準値違反を出すということ」への緊張感が少しでも伝わりましたら幸いです。 |
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